たすたすの読書録

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「蘇える変態」 星野源著

 この本は、おっぱいの話から始まります。

 確かに、『おっぱい』って凄い言葉ですよね。促音といい、半濁音といい、日本語の巧緻を極めた最も美しい単語といっても過言ではないと思うので、もっと胸を張っていいと思います。おっぱいだけに。

 

 僕なんかが紹介するまでもありませんが、源さんはミュージシャン・俳優・文筆家などなど――様々な分野でマルチな才能を発揮されており、老若男女に愛され、品行方正、容姿端麗、完全無欠なお方です。そんな源さんの2011年からの三年間を綴ったエッセイ集。

 とにかく、文章が素直でスッと入ってきます。脊髄反射のように下ネタが次から次へと飛び出してくるという。何一つ自分を偽ろうとせずありのままを表現するところが、誰からも愛される理由なのでしょうか。

 個人的には柳沢慎吾のくだりが一番好きなのですが、前半はやはり源さんの日常というか、"ものづくり地獄"がずーっと続くのが印象的ですね。仕事仕事で常に疲れていて、睡眠時間も削りまくっているもんだから、そりゃあぶっ倒れちゃいますよねえ、奥さん

 でも、好きなことを仕事にするってこういうことなのかもしれませんね。まず、好きなことだから徹底的に妥協はできないし、好きなことだから弱音なんか決して吐けない。

 源さんの場合はセルフプロデュースだから信じられないくらい体力を消耗するだろうし、ただでさえ生みの苦しみで精神を病むミュージシャンも多い中、スケジュールを極限まで詰め込み、さらにさらにと自分を追い込んでいくスタイルは、"地獄"のように本当に辛いし苦しいし孤独だろうけど、楽しいんだろうなあ。

 辛さで気が狂いそうになっている描写も多くありましたが、それでもどこか嬉々としているというか、そのハードルを越えたときの喜びに勝るものはないのだなあ、と感じさせられます。

 そして、後半は闘病記。源さんはアルバム『Stranger』のレコーディング直後にくも膜下出血で倒れ、そのまま入院。難度の高い手術と辛い闘病生活をなんとか乗り越えて三ヶ月で復帰しますが、『地獄でなぜ悪い』の発売直前にまたしても再発してしまいます。

 二度目の手術は更に困難を極め、闘病生活は「前回がまるで予告編だったような」辛さ。窓を眺め、いつだって飛び降りる準備はできている――と、さすがの源さんでも相当追い込まれます。辛いことを書けばきりがないから、となるべく明るく書いてくださっているのですが、それでも読んでいてこっちまで辛くなる場面ばかりです。

 

 そして、奇跡的な復活。まさしく、蘇える変態。

 神様がこの人を生かしてくれて、本当によかった。全くの赤の他人だけれど、心からそう思います。このあと、『SUN』や『恋』など、数多くのヒットを飛ばし続けているのは、僕が改めて言うまでもありません。

 こういう言い方は失礼ですが、源さんはもともと才能があったタイプではないと思います。それでも、他人よりも何倍も働くことで、自分のやりたかったことを全て職業にしてしまっている。そのどれもが、中途半端じゃなく、本当に星野源が何人もいるような働きぶりで。

 僕みたいな凡人は、そんな源さんに憧れています。凡人に残された手段というのは、他人の何倍も努力すること、だけなのですから。 

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