たすたすの読書録

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「そして生活はつづく」 星野源著

 最近というか――写真を撮ってツイッターに載せ始めたのはほんとうに最近ですが――確か今年の春ぐらいからかな、積極的に自炊をするようになりました。トイレ掃除も、去年の春からずっと週一ペースでやっているし。着々と独り暮らしへの準備ができてきています。

 とはいえ、包丁の握り方さえも不慣れな僕がいきなり自炊をするというのも難儀な話です。最初は家族に教えてもらいながら、最近ようやく晩御飯として成立するレベルにまで成長してきました。いやー、長かったー。けど、料理って少し面倒なだけでそんなに難しいものでもないなあ、と今では高をくくっています。ちょっとしかやったことないのにね。

 なんでこんなオチもない自炊できますよアピールから始まったのかというと、この本のタイトルが『そして生活はつづく』だからで、「つまらない生活を面白がる」というテーマのエッセイ集だからです。著者は前回に引き続き星野源さんです。

 

 男の独り暮らしってそんなもんなのでしょうが、源さんの生活がまあだらしないこと……笑。洗濯物は溜まり、流し台には食器も溜まり、携帯電話の料金は払い忘れるわ、それでも口座振替はお金を使っている感じがしないからって理由で頑なに現金に拘ったり……。でも、掃除を一度始めちゃえばあらゆるところが気になって、徹底的にやっちゃうんですよねー。わかります、わかります。

 そして、源さんがなぜプライベートや睡眠時間を削ってまで働き続けるのか、という理由もこの本で明かされます。

 確かに、どんなテレビスターやアイドルだって、戦地で暮らす人々だって、政治家だって、悪者だって、ミミズだって、オケラだって、アメンボだって――みんなみんな朝起きたら顔を洗って歯を磨き、一日三食きちんと食べて、糞して、寝ます。どんな偉業を成し遂げる人だって、または親の脛を齧ることで生き永らえている人だって、基盤には『生活』というものがあります。

 誰だって、朝起きて顔を洗って歯を磨くのは面倒くさい。できれば、ずっと寝ていたい。でも、生活の一部だから、やらなくてはならない。それを"面倒くさい"という理由で避けていては、そもそもお話にならない。

 源さんは、そんな『生活』を好きになろうと無理に口角を上げながら生きようとするのではなく、退屈なものは退屈だと認めて、それをたまに避けつつも、それに仕方なく従って生きる自分を笑う――自虐に近い面白がり方でしょうか。

『無駄だ ここは元から楽しい地獄だ』

 地獄でなぜ悪い、そんな感じです。

 僕も、ときどき『生活』から逃げたくなります。朝起きるのが、ご飯つくるのが、掃除するのが、洗濯するのが――バンドマンがMCでよくやる内輪ネタぐらい詰まらないし、重力が五倍に感じるほど面倒くさい。そんなことよりも、ドラムを叩きたい、文章を書きたい、プログラミングの勉強をしたい、目の前に山積みになった課題を一つずつクリアしていきたい。でも、基盤がグラグラではいつか足元を掬われてしまいます。

 出演する舞台の本番間近、過労による高熱で倒れてしまった源さんに対し、彼の母親が放った一言でこの記事を終わりにしたいとおもいます。

「過労? ……ああ。あんた、生活嫌いだからね」 

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