「アイデアのつくり方」 ジェームズ・W・ヤング著 今井茂雄訳
第一は、この公式は、説明すればごく簡単なので、これを聞いたところで実際に信用する人はまず僅かしかいないということ。第二は、説明は簡単至極だが実際にこれを実行するとなると最も困難な種類の知能労働が必要なので、この公式を手に入れたといっても、誰もがこれを使いこなすというわけにはいかないということである。
だからこの公式は、大いに吹聴したからといって私がくらしをたてている市場にアイデアマンの供給過多が起こるというような実際上の危惧はまずない。
日頃から自己啓発本を読み漁って啓発されまくっている方々、ご苦労様です。上の文章は1975年に出版された『アイデアのつくり方』という本の一節です。
啓発本の特徴を見事なまでに簡潔に言い得た文章だと、僕は思います。だからこそ、大した目新しい内容もないのに啓発本コーナーでは新刊が次から次へと溢れているのでしょう。
聖書は縋るためにあるもの――啓発本も同じようなものだと捉えています。自らの力では変わることの出来ない人が、これを読めば何か変わるキッカケになるんじゃないかと縋るもの。歴史上の偉人や有名な資産家で「啓発本を読んで偉くなった」という人を見たことがありませんし(これからはそんな時代になってしまうのでしょうかね、知りませんが)。
勘違いしていただきたくないのですが、啓発本自体を否定しているわけではありません。啓発本に書かれていることはごもっともです。書いてあることを真面目に実践すれば、どんな偉い人にでもなれるのでしょう。毎日サボらずにやるべきことを真面目にやっていれば必ず偉い人になれるのは誰でも知っています。
啓発本に書いてあることって、大体こんなこと。
やりたいことをやれとは書いてあるけれど、誰よりもとことんやれ、と。
自分を貫け。批判にへこたれるな。素直に生きろ。時間を無駄にするな。
要約してしまえば、なんだそんなものか、知っているよ、という内容。驚愕の裏技というのは基本的には見当たらない(巡り合えていないだけかもしれませんが)。
そう、みんな知っているのです。そんなの知っているよ、って。でも、実行に移すのが難しい。実行に移せる人って、そもそもそんな本に縋ったりしないんじゃないですか?
啓発本から新しい気づきを得て人生をより豊かにしている人はとっても素敵だと思いますが、読んだだけで満足してしまう人も中にはいますよね。それだけならいいんですが、読んだだけで少し自分が周りより偉くなったように錯覚してしまう人もいます。そういう人は大体、スタバでマックを開いて"仕事してますよ感"を出すのがとってもお上手です。そんなところでアピールしてないで、家で黙々とやったほうが集中できませんか。ルー語みたいに横文字ばっかり並べて、全くもって中身のない会話で、貴方はハリボテですか。びんぼっちゃま君の家ですか。
そんなに無駄に沢山読まなくても、この一冊だけでよくないですか。
この本には、タイトル通り、アイデアのつくり方が簡潔にまとめられています。本文は60頁程度で、帯には「60分で読める」と書かれていますが、どんなにゆっくり読んでもそんなにかかりませんでした。
先に明かしてしまいますが、内容は簡単。以下の五つの工程に従うだけです。
①資料集め
②集めた情報を咀嚼する
③一旦全てを忘れる
④閃きを待つ
⑤浮かんだアイデアを具体化し展開
三つ目の工程は少し意外かもしれませんが、その他の工程に意外性などありませんよね。資料集めなんて当然だと思われるかもしれませんが、割と端折られているのをよく見ますし、僕も結構端折ります。『閃き』ってなにもないところから突然生まれてくるものだと思いますか?
まず、一つ目の工程が途轍もなく大変。嫌になるほどこれでもかと調べないと、閃きの種にはなってくれません。知りたいことだけじゃなくて、興味のないことでも見境なく調べつくさなくちゃなりません。
次の工程は更に大変。必死こいて集めた情報を分解して、組み合わせて、ひたすら考える。無限の組み合わせを虱潰しにあたっていく。文句垂れながらでも、その手を止めてはならない。
ひたすら悩んで、不貞寝。そしたら翌朝に閃く、らしいです。
そして、最後の工程が一番大変。なんだこのアイデア使えねーの、って捨てちゃうのが殆ど。ここでいかに素敵な具体例に昇華させられるかが大きな鍵です。
……とまあ、実行してみたら大変なことこの上ない。この本を一周読み終える労力の何億倍も辛い。でも、この工程に従うのが一番の近道なのだと思います。なにしろ、40年以上も読み継がれている本なのです。
楽そうな近道を探すことが、実は一番の遠回りだったりして。