たすたすの読書録

読んだ本の感想を書く。

「ねらわれた星」 星新一著

 小学校の図書室にありましたよね、星新一先生のショートショート

 かくいう僕もショートショートを読み漁っていた小学生の一人です。『かいけつゾロリ』シリーズも好んで読んでいたのですが、"読書をする"という行為にのめり込む契機となったのは、紛れもなく星新一先生のショートショートシリーズでした。

 

 あのときに図書室で見た和田誠さんの表紙がとってもお洒落で格好良かったのを覚えています。一見、親しみやすくて如何にも可愛らしいイラストなんですよ。それでも、星新一作品特有のブラックさやシュールさが巧みに表現されていて、小学生の拙い感性ながらに圧倒されましたね。『二面性』とはまた違うのですが、一筋縄ではいかない雰囲気が当時の僕にはシビれました。

 そういえば、五味太郎さんのイラストも好きで、『ことわざ絵本』を何回も繰り返し読んでいたなあ。なんなのでしょうかね、僕は素朴なイラストやデザインが好きな傾向にあるのでしょうか……話は少し脱線してしまいましたが。

 

 ショートショートというだけあって一話につき5頁程度と短く、文章も簡潔で読みやすい。これはどこかで読んだのですが、「人類滅亡をテーマにした文章を作家たちに依頼したら、多くの作家は滅亡までの過程をこと細かく描くが、星新一は『人類が滅亡した。』という一文のみで終わらせるだろう」と冗談半分で書かれるほどに簡潔です(もし出典がなければソースは僕です)。事実のみを伝える如何にも理系らしくて分かりやすい文章なのですが、決して内容が易しいというわけではありません。オチがあっさりとしすぎていて少し頭を捻らないと分からないものばかりですし、秘められたメッセージは小学生には酷なほど社会派です。

 当時の僕は案の定――全く理解できていませんでしたが、独特の世界観に引っ張られてよくわからないままひたすらに頁を捲っていました。図書室にある分は確か全部読んだ気がします。そんな僕でもオチに戦慄し、強烈な印象が今でも残っているのが『おーいでてこい』というお話。

 台風が去ったあと、ある村のはずれの山で穴が発見される。学者たちが集まり穴について調べたが、底までの深さが一向に分からないほどに深いらしい。それならばと、機密書類、死体、汚物、原子炉廃棄物などなど、人々はこぞって都合の悪いものをこの穴に捨てていくようになる――といった粗筋。これだけでオチが分かってしまう人もいるのではないでしょうか。っていうか、そもそも知っている人が大半なのかな。読んだことのない人は実際に読んでみてください。ショートショートだから下手するとネタバレを調べるよりも速いです。笑

 この物語の状況って、まさしく現代にも通じますよね。「臭いものには蓋をしろ」的な発想。都合の悪いことは隠蔽して、捏造して、そんなものはそもそもなかったように世の中を上書きしてしまいたい気持ちは分からなくもないですが、そんな夢物語があるわけありませんね。

 

 星新一先生が投げかける疑問は、単にSFという虚構の話で片付けてよいものではありません。歳を重ねれば重ねるほど意味がわかってきて、更に唸らされます。きっとこれから先のどこかで読み返しても、また印象が変わるんだろうなあ。幼い頃に夢中で読んでいた文章に幾つになっても新鮮な気持ちで感動できるって、滅多にない体験ができている気がします。

 

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