たすたすの読書録

読んだ本の感想を書く。

「アイデアのつくり方」 ジェームズ・W・ヤング著 今井茂雄訳

 第一は、この公式は、説明すればごく簡単なので、これを聞いたところで実際に信用する人はまず僅かしかいないということ。第二は、説明は簡単至極だが実際にこれを実行するとなると最も困難な種類の知能労働が必要なので、この公式を手に入れたといっても、誰もがこれを使いこなすというわけにはいかないということである。

 だからこの公式は、大いに吹聴したからといって私がくらしをたてている市場にアイデアマンの供給過多が起こるというような実際上の危惧はまずない。 

 

 日頃から自己啓発本を読み漁って啓発されまくっている方々、ご苦労様です。上の文章は1975年に出版された『アイデアのつくり方』という本の一節です。

 啓発本の特徴を見事なまでに簡潔に言い得た文章だと、僕は思います。だからこそ、大した目新しい内容もないのに啓発本コーナーでは新刊が次から次へと溢れているのでしょう。

 

 聖書は縋るためにあるもの――啓発本も同じようなものだと捉えています。自らの力では変わることの出来ない人が、これを読めば何か変わるキッカケになるんじゃないかと縋るもの。歴史上の偉人や有名な資産家で「啓発本を読んで偉くなった」という人を見たことがありませんし(これからはそんな時代になってしまうのでしょうかね、知りませんが)。

 

 勘違いしていただきたくないのですが、啓発本自体を否定しているわけではありません。啓発本に書かれていることはごもっともです。書いてあることを真面目に実践すれば、どんな偉い人にでもなれるのでしょう。毎日サボらずにやるべきことを真面目にやっていれば必ず偉い人になれるのは誰でも知っています。

 啓発本に書いてあることって、大体こんなこと。

 やりたいことをやれとは書いてあるけれど、誰よりもとことんやれ、と。

 自分を貫け。批判にへこたれるな。素直に生きろ。時間を無駄にするな。

 要約してしまえば、なんだそんなものか、知っているよ、という内容。驚愕の裏技というのは基本的には見当たらない(巡り合えていないだけかもしれませんが)。

 そう、みんな知っているのです。そんなの知っているよ、って。でも、実行に移すのが難しい。実行に移せる人って、そもそもそんな本に縋ったりしないんじゃないですか?

 

 啓発本から新しい気づきを得て人生をより豊かにしている人はとっても素敵だと思いますが、読んだだけで満足してしまう人も中にはいますよね。それだけならいいんですが、読んだだけで少し自分が周りより偉くなったように錯覚してしまう人もいます。そういう人は大体、スタバでマックを開いて"仕事してますよ感"を出すのがとってもお上手です。そんなところでアピールしてないで、家で黙々とやったほうが集中できませんか。ルー語みたいに横文字ばっかり並べて、全くもって中身のない会話で、貴方はハリボテですか。びんぼっちゃま君の家ですか。

 

 そんなに無駄に沢山読まなくても、この一冊だけでよくないですか。

 この本には、タイトル通り、アイデアのつくり方が簡潔にまとめられています。本文は60頁程度で、帯には「60分で読める」と書かれていますが、どんなにゆっくり読んでもそんなにかかりませんでした。

 先に明かしてしまいますが、内容は簡単。以下の五つの工程に従うだけです。

 ①資料集め

 ②集めた情報を咀嚼する

 ③一旦全てを忘れる

 ④閃きを待つ

 ⑤浮かんだアイデアを具体化し展開

 三つ目の工程は少し意外かもしれませんが、その他の工程に意外性などありませんよね。資料集めなんて当然だと思われるかもしれませんが、割と端折られているのをよく見ますし、僕も結構端折ります。『閃き』ってなにもないところから突然生まれてくるものだと思いますか? 

 まず、一つ目の工程が途轍もなく大変。嫌になるほどこれでもかと調べないと、閃きの種にはなってくれません。知りたいことだけじゃなくて、興味のないことでも見境なく調べつくさなくちゃなりません。

 次の工程は更に大変。必死こいて集めた情報を分解して、組み合わせて、ひたすら考える。無限の組み合わせを虱潰しにあたっていく。文句垂れながらでも、その手を止めてはならない。

 ひたすら悩んで、不貞寝。そしたら翌朝に閃く、らしいです。

 そして、最後の工程が一番大変。なんだこのアイデア使えねーの、って捨てちゃうのが殆ど。ここでいかに素敵な具体例に昇華させられるかが大きな鍵です。

 

 ……とまあ、実行してみたら大変なことこの上ない。この本を一周読み終える労力の何億倍も辛い。でも、この工程に従うのが一番の近道なのだと思います。なにしろ、40年以上も読み継がれている本なのです。

 楽そうな近道を探すことが、実は一番の遠回りだったりして。

 

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アイデアのつくり方 | ジェームス W.ヤング, 竹内 均, 今井 茂雄 |本 | 通販 | Amazon

「ねらわれた星」 星新一著

 小学校の図書室にありましたよね、星新一先生のショートショート

 かくいう僕もショートショートを読み漁っていた小学生の一人です。『かいけつゾロリ』シリーズも好んで読んでいたのですが、"読書をする"という行為にのめり込む契機となったのは、紛れもなく星新一先生のショートショートシリーズでした。

 

 あのときに図書室で見た和田誠さんの表紙がとってもお洒落で格好良かったのを覚えています。一見、親しみやすくて如何にも可愛らしいイラストなんですよ。それでも、星新一作品特有のブラックさやシュールさが巧みに表現されていて、小学生の拙い感性ながらに圧倒されましたね。『二面性』とはまた違うのですが、一筋縄ではいかない雰囲気が当時の僕にはシビれました。

 そういえば、五味太郎さんのイラストも好きで、『ことわざ絵本』を何回も繰り返し読んでいたなあ。なんなのでしょうかね、僕は素朴なイラストやデザインが好きな傾向にあるのでしょうか……話は少し脱線してしまいましたが。

 

 ショートショートというだけあって一話につき5頁程度と短く、文章も簡潔で読みやすい。これはどこかで読んだのですが、「人類滅亡をテーマにした文章を作家たちに依頼したら、多くの作家は滅亡までの過程をこと細かく描くが、星新一は『人類が滅亡した。』という一文のみで終わらせるだろう」と冗談半分で書かれるほどに簡潔です(もし出典がなければソースは僕です)。事実のみを伝える如何にも理系らしくて分かりやすい文章なのですが、決して内容が易しいというわけではありません。オチがあっさりとしすぎていて少し頭を捻らないと分からないものばかりですし、秘められたメッセージは小学生には酷なほど社会派です。

 当時の僕は案の定――全く理解できていませんでしたが、独特の世界観に引っ張られてよくわからないままひたすらに頁を捲っていました。図書室にある分は確か全部読んだ気がします。そんな僕でもオチに戦慄し、強烈な印象が今でも残っているのが『おーいでてこい』というお話。

 台風が去ったあと、ある村のはずれの山で穴が発見される。学者たちが集まり穴について調べたが、底までの深さが一向に分からないほどに深いらしい。それならばと、機密書類、死体、汚物、原子炉廃棄物などなど、人々はこぞって都合の悪いものをこの穴に捨てていくようになる――といった粗筋。これだけでオチが分かってしまう人もいるのではないでしょうか。っていうか、そもそも知っている人が大半なのかな。読んだことのない人は実際に読んでみてください。ショートショートだから下手するとネタバレを調べるよりも速いです。笑

 この物語の状況って、まさしく現代にも通じますよね。「臭いものには蓋をしろ」的な発想。都合の悪いことは隠蔽して、捏造して、そんなものはそもそもなかったように世の中を上書きしてしまいたい気持ちは分からなくもないですが、そんな夢物語があるわけありませんね。

 

 星新一先生が投げかける疑問は、単にSFという虚構の話で片付けてよいものではありません。歳を重ねれば重ねるほど意味がわかってきて、更に唸らされます。きっとこれから先のどこかで読み返しても、また印象が変わるんだろうなあ。幼い頃に夢中で読んでいた文章に幾つになっても新鮮な気持ちで感動できるって、滅多にない体験ができている気がします。

 

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ねらわれた星 (星新一ショートショートセレクション 1) | 星 新一, 和田 誠 |本 | 通販 | Amazon

「世界でもっとも強力な9のアルゴリズム」 ジョン・マコーミック著 長尾高弘訳

 昔は良かったなあ、なんてよく囁かれる。

 なにを言っているのだろう、このオジサンは。今のほうが買いたいものをすぐに買える――しかも、家から一歩も出ることなく。誰とも気軽に連絡が取れる。なにしろ僕らの周りは常にモノで溢れていて、昔に比べたら遥かに恵まれた時代であることには間違いない。

 それでも時々、僕は何もなかった時代を生きた人々を羨ましく思ってしまう。

 

 今から40年前、コンピュータというものが全く普及していなかった時代。

 新潟に、プログラマを志す少年がいた。

 その夢を親や周りの大人たちに話したが、理解してもらえるわけもなかった。なにせ、通っている工業高校の友人の中でさえ、コンピュータの話が通じるのはたった一人だけだったのである。

 彼は必死にアルバイトをしてお金を貯め、一年分の給料でポケットコンピュータを買った。

 スペックなんて、ご想像のとおり、今のコンピュータと比べる行為すらお粗末なほどの、数十バイトの世界である。

 それから40年が経ち、日進月歩でコンピュータの性能は向上していった。彼が新しい技術に関心を示すことはあれど、あのポケットコンピュータを手にしたときの感動を超えるものは未だに訪れていないらしい。おそらく、これから先もないだろう――と彼は語る。

 

 YMOが結成してから40周年を向かえる今年――偶然にも東京に、プログラマを志す少年がいた。……格好つけた文章で長々とすみません。そうです、僕です。前置きはこの辺までにしときましょう。

 

 小さい頃、おもちゃを分解して遊んだことってありました?

 中の仕組みがどうなってるかって好奇心は誰にでもあると思うんです。でも、実際に分解したことある人って、少ないんじゃないでしょうか(意図せず壊したとかはまた別ですよ)。

 新潟のプログラマ志望の少年が生きた時代のおもちゃは機構がシンプルで、分解して仕組みを学ぶには丁度良かったのかもしれません。でも、今の製品って、子供が遊ぶおもちゃでさえ機構が複雑ですよね。それに、ネジを飲み込むと危険だから~とかいう理由で簡単に分解できないようになっています。

 そういった初期の好奇心を育てる入り口がないからこそ――僕らにとって、家電やスマホ、ましてやその辺のおもちゃですら、中身の分からないブラックボックスと化してしまいました。

 まるで魔法でも使っているようなイメージのまま、僕らはその電子機器から多大なる恩恵を授かっています。大半の人が"別に仕組みなんて知らなくていい"と思っているのは、中身が複雑すぎてチンプンカンプンだから。

 無関心になり、有難味もなく、いつでもどこでも通信できるのが当たり前で、ちょっとでも処理速度が落ちるとイライラする。そんな僕らにとって、40年前のポケットコンピュータは何の役にも立たない機械に映るでしょう。……確かに、何の役にも立たないですが(笑)、そういった小さなことでも『技術に感動できる』人って、とっても心が豊かだと思います。

 産まれたときからコンピュータに囲まれて育ってきた僕らにとって、そんな風に『技術に感動できる』感性を持つことって、やっぱり難しいと思います。

 

 でも、だからといって、昔のほうが良かったとは一切思いません。だって、昔のそういったシンプルな機構なものは、今も存在するんだもん。ネットで調べて、その昔の人が辿った道を僕らが擬似的に辿ればいいんじゃん。今の時代のほうがモノに溢れていて確実に恵まれているに決まっているじゃないですか。

 大切なのは、それを扱う人の問題。先ほども言ったように、昔の人が歩んできた歴史なんて、ネットを使えば恐ろしく短い時間で網羅できてしまいます。そりゃあ当事者の感動は超えられないかもしれないけれど、情報量だったら圧倒的に有利です。

 フェイクニュースとかで情報過多の波に飲まれてあっぷあっぷしている人が殆どみたいですが、情報の取捨選択がそれなりにできるようになって、いざこの波に乗ってしまえば、これほど強力な武器はありません。これからは情報をいかにして素早く大量に吸収し続けられるか。授業をカリキュラム通りのペースでやっている人ほど、取り残されていく時代になっていくでしょう。――なんか、最近流行りの啓発本みたいですね。啓発本自体は嫌いじゃないのですが、内容をよく咀嚼もせずにあたかも自分で思いついたみたいな顔して横流しする人が沢山いるので、そういう人たちは嫌いです。……脱線しちゃったので、話を戻しますね。

 

 説教じみていてウザいですが、もう少々お付き合いください。というか、関心のない人はもうとっくに読むのをやめてますよね。

 要約すると、今のほうが情報に溢れているのだから、それを扱わない手はないよね――というお話です。

 それを円滑に行うためには、仕組みの理解、『技術に感動できる』感性を持つことが必要だと思います。といっても難しいことではなくて、多かれ少なかれ、誰にでも持ち合わせている感性だと僕は信じています。

 アルゴリズムとは、問題を解くための手順を定式化したもの。この本を読めば、なぜ検索して知りたい情報がヒットするのか、どうやって情報を暗号化しているのか、人工知能の仕組みはどうなっているのか――などが大体分かるようになっています。"自分には理解できるわけもない"とどこか思い込んでいた技術の根底の仕組みが手に取るように分かるって、面白くないですか。

 読むのを強要したら美しいものが失われる感じがするので、読みたい人だけ読んでいただきたいです。んー、これもなんか押し付けがましい。……気になったら読めばいいんじゃない?

 コンピュータが涼しい顔でいかに想像を絶する大仕事をこなしているのかが掻い摘んで分かるようになります。それに、屈指の天才たちの閃きがこれでもかと詰め込まれたとんでもない英知の結晶だということに気づいて愕然とすること請け合いです。ほんともー、ようつべとかエロサイト巡りするためだけに格好つけてカフェでMac使ってんじゃねえよ、って感じですね。別に、個人の自由だからいいんですけど。

 難しい数式はでてきませんし、例え話を多用していてとても分かりやすい内容になっています。少なくとも、この本を読んだら、自分のスマホを丁寧に扱おうという意識が芽生えるかもしれません。そんな風に、『技術に感動できる』入り口としてはもってこいの一冊です。押し付けがましい。読んでみたら?

 

 40年前、新潟でプログラマを志した少年。

 結局、プログラマになることはできませんでしたが、技術屋としてハードウエアを修理する仕事を全うしました。

 そんな背景も知らない僕は、なんの因果か、プログラマを志すようになりました。

 いつの間にか、その意志を継ぐ形となったのです。

 昔は良かったなあ。でも今はもっと恵まれているんだから、お前が羨ましいよ――とのお言葉をいただきました。

 

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世界でもっとも強力な9のアルゴリズム | ジョン・マコーミック, 長尾高弘 |本 | 通販 | Amazon

 

 

「BGM」 YELLOW MAGIC ORCHESTRA

 本日は番外編です。

 最近は試験勉強の追い込みで忙しく、本を読む余裕がありませんでした。でも、イヤホンなら相変わらず耳に突っ込んだまま生活していましたので、じゃあ音楽の話でもすればいっか、という当然の成り行きですが、なにか?

 これからもたまに音楽の話をすると思うので、忙しさにかまけて本を読むのをサボったんだなと、ご理解頂けると幸いです。

 

 人生がガラリと変わった経験、皆さんはお持ちでしょうか?

 

 小学一年生の頃、父から渡されたウォークマンにはやたらとノリのいい洋楽ばかりが入れられていました。QUEENABBA、ELOにPET SHOP BOYSなど……その中に、YMOの名前もありました。

 これ、聴いたことある。

 RYDEENの有名なリフでした。それからというもの、狂ったようにRYDEENだけを聴き続けました。僕のテクノ好きの起源は、そこにありました。ウォークマンに入っていたのはYMOのベスト盤だったので、後半には活動中期以降の名曲たちが入っていたのですが、小一の僕に良さが分かるわけもなく、ひたすらRYDEENだけ(たまにTECHNOPOLIS)をループしていました。

 でも、言ってもその頃はそれだけ。そのウォークマンは次第に長谷川少年の傍には置いてもらえなくなってしまい、今ではどこに埋もれているのかも分からない状態です。申し訳ないことをしたなあ、書き終わったらちょっと探してみよう。

 

 時は巡り、高校三年生になった長谷川青年。家で独りで試験勉強に明け暮れていた頃、YMOとの二度目の出会いが訪れます。

 Youtubeで勉強に集中するためのBGMを漁っていました。最初は当たり障りのないゲーム音楽やクラシックを流し、自動再生をオンにしたまま、曲を聴いていることすら忘れるくらい勉強に没頭していたそのときでした。

 YMORYDEENが流れてきたのです。懐かしいなあ~、よく聴いていたなあ。

 YMOがどれだけ偉大だったのかは色々な文献で読んで知った気になっていましたし、教授がごっつええ感じのアホアホマンに出ていたのも観ていたので、「気取らなくてカッコいいオジサンたち」という薄~い印象でした。

 ――『BGM』っていうアルバム、あんまり好きになれなかったんだよなあ。ずっと同じこと繰り返してるだけで、展開がなくて、RYDEENとは比べ物にならないくらい地味だし、でも勉強には丁度いいから聴くか……。

 本当に失礼な表現になってしまいますが――というか既にもう十分失礼なのでもう遠慮なくいっちゃいますが――他の聴きたい曲を"我慢"してとりあえず一周だけしてみました。でも、印象は大して変わらず。終わってすぐ、明らかに聴きやすい『SOLID STATE SURVIVOR』の再生ボタンに手がのびました。

 ――やっぱりYMOはこれだよなあ。

 でも、謎の使命感で、『BGM』を聴き終えるまでは『SOLID STATE SURVIVOR』禁止令を自分に課していました。

 

 『BGM』と『テクノデリック』のYMO中期を代表する二枚のアルバムは、評価が極端に二分されていることでも有名です。詰まらないという人にとっては徹底的に詰まらないけれど、最高傑作だと評価する人もいる。

 僕、思うんですけど、最高傑作だと評価する人も、たぶん最初はハテナマークが浮かんでいたんじゃないかなー、と。この音楽を最初から理解できる人って、なかなかいないでしょう、おそらく。なにかのインタビューで「これはYMOが仕掛けた音楽的な実験だ」というような文言を見た覚えがあります。これって、聴き込んだかどうかの差じゃないですか。もちろん、聴きこんだほうが偉いとか、そういった"すぐマウントを取りたがる奴"にありがちなしょうもない優越感は一切ないし、好きな曲を好きに聴けばいいと思うんですけど、難解であればあるほど理解できたときの喜びってひとしおだと僕は思います。

 だから、理解したい一心で、ひたすら"我慢"して聴きこんでいました。

 だけど、いつまで経っても分からない。同じことを繰り返しているのに変わりはないし、キャッチーなほうがノリノリになれて楽しいに決まっている。なにしろどの曲も暗すぎるし、曲としての原型を留めないあまりに曲と呼んでいいのかすら分からない"音の集合体"みたいなのまであるし……。

 

 ――でも、分からないけれど、分からないなりに、聴かないとなんとなく落ち着かなくなってきた。

 ……ええ、もう既に、沼に嵌りました。

 ここから数日間は寝る前に一周しないと眠れなくなってしまいました。もはや病的ですね。暗い曲調なんだけど、むしろそれが心地よくて、心を鎮めたいときに精神安定剤の代わりとしてよく聴きます。

 なんか、聴きたくなったような、聴きたくなくなったような――これを読んでいるあなたはどんな気分でしょうか笑。でも、音楽って薬のようでもあり、毒のようなものでもあると思いますよ。酒にも煙草にも薬物にも負けないくらいの依存性もありますし。

 

 僕はこのアルバムを聴き始めてそんなに日も経っていないですが、"僕の人生を変えた名盤"として間違いなくこれから先もこの作品を超えるアルバムとは出会えないような気がします。

 その場で感覚的に理解するのが音楽だと思っていたけれど、難解なものをひたすら聴き込んで解きほぐした先に待っている魅力や快楽を追い求めるのも音楽なのだと学べたことは僕の人生にとって、途轍もなく大きいです。これはもちろん、音楽だけに限った話ではありません。井の中の蛙が大海に出てしまったようなもので、ちっぽけな僕は未だに呆然と立ち尽くしているだけで情けないですが……。

 もう何十回、何百回と聴いていますが、聴くたびに新しい発見があるので、一向に飽きる気配がありません。おそらく、一生聴くことになるのではないでしょうか。

 

 僕も、残る音楽を作りたい。今は"所詮"ドラマーでしかないけれど。

 分かりやすい心地よさと、難解なものの奥に隠された喜びを繋ぐ架け橋になれるような、そんな音楽を作りたい。

 この一枚が僕のこれからの表現にどう影響していくかは分かりません。メンバーはそんなに興味を示していないから、明らかにテクノ路線になっちゃったりはしないでしょうけど。

 でも、話してみるとメンバーそれぞれ考えていることに関しては共通点が多くて、安心しました。たぶん、僕らのバンドはこれからもっと面白いことになっていくと思います。あくまで、僕らの基準ですが。

 誰のためでもなく、音楽をやっていいんだ。言葉ではみんな分かっている風だけど、実際はどうも難しいらしい。僕らは素でそれをやっていきたい。

 ……でも、ある程度生活できるくらいには評価されたいですが。笑

 まだなにも成しえていないから言うのは恥ずかしかったですが、将来どんな自分になろうと「言うことが変わった」なんて思われたくなったので先手打って書いちゃいました。そんな決心を後押ししてくれた一枚でした。 

 人気絶頂だったYMOが採算度外視でこんなに好き勝手やった作品を世に出すことを許したアルファレコードの心意気とか、なぜ『BGM』というタイトルなのかとか、もっと色々と言いたいことはあるのですが、長すぎるので本日はここまでに致します。

 

 

 では、折角なので、なにが折角なのかは分かりませんが、一曲一曲、僕の思い出を交えて、興味のない人にとってはどうでもいいことを延々と書いていくので、かったるいという方はもう読まなくて結構です。お付き合い頂きありがとうございました。お疲れ様です。

 

『バレエ』

 まさしくBGMの幕開けって感じです。当時、RYDEEN系統のキャッチーなテクノポップを期待した"自称YMOフリーク"たちがレコード屋さんから帰ってきて最初にこの曲を聴いたときの「……な、なんだこれは」と困惑した表情を想像すると面白いですね。僕もなりましたが。

『音楽の計画』

 BGMにおいて教授作曲の新曲が少ないのは、当時は教授と細野さんの仲が悪かったかららしいです。ほとんどボイコットしてたそうで。そのためか、なんとなく音が尖ってる感じでカッコいいです。教授の曲のなかでは結構上位に入るくらい好き。

『ラップ現象』

 この曲で細野さんが日本で一番最初にラップしたらしいんですけど、そこまで韻に重きを置いている感じではないのでしょうか。ところどころふざけているし、なによりラップ現象とラップの駄洒落ってところが細野さんらしいですね。

『ハッピーエンド』

 タイトルとは間逆のバッドエンドって感じの曲調です。教授のオリジナルバージョンから主旋律がごっそり抜かれているので、もはや曲といっていいのか分からないシリーズのPART1です。

千のナイフ

 細野さんに「千のナイフみたいな曲を作ってよ」と言われて、尖りまくってた教授が「なら千のナイフでいいじゃん!」とキレたため、YMOカバーバージョンを収録することが決まったそうです。キーボードソロのヤケクソ感から当時の教授の精神状態が窺えますね。個人的にはオリジナルよりもこっちのほうが好きです。

『キュー』

 BGMのなかでは明るくて分かりやすい部類に入るのかな。最初に聴いたときは「最後までこんな暗い感じなのかな……」と思っていたときにこの曲がきたので、とても印象に残っています。教授はある既存の曲に酷似しているという理由で作曲に参加せず、細野さんとユキヒロさんの二人で作ったそうですが、あまりに盛り上がっちゃったために曲が出来たときに二人で記念撮影したというエピソードが可愛らしくて好きです。その後、月日は流れメンバー間のわだかまりもなくなり、ライブでこの曲をやるということになったときに教授が自らドラムパートを志願したというのも心暖まる話です。

『ユーティー

 北園高校の太陽神のことではありません。この曲、ドラムが「ドドドドタタッ」ってフレーズなのですが……ユキヒロさん、シングルペダルですよね。一体、どうやっているのでしょうか。頑張って踏むしかないですね。いつかユキヒロさんに直接「この曲のドラム、凄いですね」って言って「ええ、凄いです」って返してもらうのが夢です。

『カムフラージュ』

 4分33秒からの日本語詞、エフェクトがかかっていてはっきりとは聞き取りにくいですが、めちゃくちゃ怖い歌詞です。いかにも精神病って感じです。

『マス』

 YMOのなかでも一二を争う胸アツ展開、特に後半にかけて。僕の勝手なイメージですが、宇宙船がこれから出航する感じがします。

『来たるべきもの』

 無限音階というものが面白かったからそのまま曲にしちゃったという、曲といっていいのかわからないシリーズPART2。というよりは、アンビエントです。寝れそうなやつです。個人的にはテクノデリックの『後奏』のほうが良く寝れますがあの曲だと本当にそのままポックリ逝っちゃいそうな感じがするので、寝る前はこっちを聴くようにしています。

 

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「江戸川乱歩傑作選」 江戸川乱歩著

 完全な球体の内側を一面鏡張りにして、ランタンなどの光源を持ってその中にすっぽりと入ったら、自分の姿はどのように映ると思いますか?

 

 僕は中学生の頃に読んだ江戸川乱歩先生の本で、この問いを投げかけられました。

 はたして、どうなるのだろう。

 一般的な鏡は平面だから、自分の姿が反射してそのまま視界に入ってくる。だが、曲面だと反射してそのまま視界に入ってくるとは考えにくい。無限に屈折を繰り返して、もしかしたら自分の姿は映らないのでは?

 いや、待てよ――もし無限に屈折するのなら、どこかで反射したタイミングで必ず視界に飛び込んでくるはずだ。曲面での反射はランダムだから、いろいろなところに飛散する。そうしたら、無数の自分が映るのかもしれない。

 でも、無限に屈折しているのだから、そこに映る自分の数が有限個なのはおかしい。もしかして、光が無限に屈折するために目も当てられないほど眩しくなってしまうのか、むしろ真っ暗闇のままなのか、はたまた、自分を構成する色素を全て混ぜ合わせたようななんとも言えない色で満遍なく塗りつぶされてしまうのか……。

『鏡地獄』という短編なのですが、最後にこの問いの答えが明かされることはありませんでした。ただ、主人公はこの球体の中に入ったことで気が狂ってしまいます。本人に明確な解答があったかは分かりませんが、これは乱歩先生による思考実験だったのですね。その後、物理学者が実際に作って実験しています。興味のある方はYoutubeで検索にかければすぐに出てくるんじゃないでしょうか。

 

 僕が初めて読んだ『鏡地獄』に始まり、『人間椅子』『目羅博士の不思議な犯罪』『パノラマ島奇譚』『押絵と旅する男』などなど……一切休むことなく読み進めました。なにより、設定が面白すぎる。人間がすっぽり入っちゃう椅子とか、"パノラマ島"という絵空事のような桃源郷を実際に作っちゃう話とか。さすが少年少女向けの冒険小説だって書けちゃう乱歩先生だけあって、エログロのなかにも厨二心をくすぐるようなワクワクがあったりするのです。乱歩先生、めちゃくちゃ人間嫌いらしいのにね。どうしてこんなに人のワクワクするツボ、知ってるんだろう。

 そんな乱歩先生のワクワクの集大成が『孤島の鬼』という長編だと、僕は個人的に思っています。後半は手に汗握る展開!……とか安っぽくてあんまり書きたくないのですが、完全なる冒険小説のソレです。一通り短編を読んでからこの作品を読むと、オールスター感謝祭かよ、ってなります。僕はオールスター感謝祭自体はごちゃごちゃしすぎててあんまり好きじゃないんですけどね。

 

 ……まあ、いろいろ紹介したけど、乱歩ワールドの入り口としてはこの傑作選を読むのが一番もってこいだと思います。読む順番がどれからでもいいのは言うまでもありませんが、最後に『芋虫』を持ってくる辺りに新潮社のセンスを感じます。目を逸らしたくなるような描写が多く、まさしく乱歩先生のエログロの極致といった感じなのですが、とっても切なく、美しい物語です。

 初めて読んだあとの抜け殻になったような感覚は忘れません。僕は乱歩先生の作品で『芋虫』が一番好きです。

 

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「決断力」 羽生善治著

 いつだったか忘れてしまいましたが(たぶん再放送とか)、何の気なしに見ていたプロフェッショナルがたまたま羽生善治先生の回でした。2003年の名人戦――森内九段との七番勝負。

 駒をどう動かせばいいのかすら全く知らない僕でしたが、一気に惹きこまれてしまいました。

 言ってしまえば、和室で着物姿の男性二人が盤を挟んで向かい合ったままひたすら動かない映像が延々と放送されているだけ。……なのですが、途中からはその和室の何万倍も広い空間で二人が将棋を指しているように錯覚しました。僕なんかには到底理解し尽くせない世界が思いがけず広がっていたので、"茫然自失"といった感じでしょうか。

 

 将棋の手は、10の220乗あるといわれています。

 一方、チェスは10の120乗。チェスよりもはるかに多いのは、"取った相手の駒も自由に使える"という将棋独自のルールによるもの。

 10の220乗は、全宇宙の素粒子よりも多い――というのは全宇宙の素粒子の数があくまで憶測でしかないので確実には言い切れませんが、それだけ途方もない数ということが言いたいのでしょう。

 盤自体は小さいのですが、そこには宇宙よりも広大な世界が広がっていたのですねえ……なんて、恥ずかしいこと言ってみました。

 羽生先生と森内九段の二人がその手筋を全て知っているわけでないのは言うまでもありませんが、少なくとも人類のなかでは誰よりも先頭で道を切り開き続けているような、そんな気がしたのです。

 

 公式戦で決して負けられない場面であるにもかかわらず、羽生先生が定石ではあり得ないような手を打ちました。誰もが経験してこなかった――混沌とした状況へと、わざと自ら持って行ったのです。

 公式戦が行われている最中、別室で他のプロ棋士たちが集まって盤面を見ながらあーだこーだと議論を交わすのが慣わしなのですが、羽生先生のこの一手以降、誰も何も言えなくなってしまいました。なにせ、何百年と続く歴史のなかで、このような盤面になったことは一度としてなかったからです。

 最先端にいる二人にしか分からない何かがあるのでしょうか――そのとき二人が目を合わせて思わず笑みを零したのです。僕はそのシーンに強く心を揺さぶられたのですが、後日談で「あのとき笑ったのはあまりにもお互いが考え込んでしまったために記録係の人が寝ちゃったから」という話を聞いて、僕のあの感動はなんだったんだろう……ってなりました。

 

 羽生先生は、どんなに負けられない公式戦でも決して守りに入ったりしません。

 これは悪く言えば成績が安定しないということですが、不思議なことに、それでも勝率七割を維持している棋士は羽生先生以外いません。常に攻め続ける姿勢があったからこそ、日進月歩で戦法の変わる将棋界でも息長く勝ち続け、永世七冠という偉業が成し遂げられたのだと思います。

 ここ一番での『羽生睨み』がとっても恐いのも、勝利を確信したときに手が震えるのも、大事な公式戦で寝癖をつけたまま登場するのも、その寝癖にファンから『アンテナ』という愛称がつけられるほどお馴染みとなった光景なのも、誰よりも謙虚なのも――まさしく僕が思い描く"天才像"そのものです。

 あと、将棋会館に行けば会えてしまう、というのも素敵。だからって、本当に会いに行ったら素敵度が半減しちゃうの、わかるかなあ、ヲタクのみんな。

「前まではちょっと遠い駅から(将棋会館まで)徒歩だったんですけど、もっと近い駅ができて、今ではそちらを利用しています」というのを照れ笑いしながらテレビで語る羽生先生が庶民的でなんだかほっこりしました。失礼ながら、この人も人間なんだなあ、と。

 『決断力』では、将棋だけに留まらない羽生先生の考え方や流儀が沢山学べます。この本に手をつける前に羽生先生にまつわる様々な文献を読んでいたので、僕の場合は新しい発見などはあまりなかったのですが、それでも羽生先生ご自身の文章だと重みが全く違います。

 

 ……んー、今日はただのファンの文章だわ。読み返してみたけど、なんか気持ち悪いね。なんだろう、好きなものを語るときのこの独特な気持ち悪さは。この辺にしておきましょうか。最後は、羽生語録の中から僕が特に好きなものをおひとつだけ。

 才能とは一般的に生まれつき持った能力のことをいいますが

私は、一番の才能とは同じペースで努力をし続けられる能力だと考えています。

 

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決断力 (角川oneテーマ21) | 羽生 善治 |本 | 通販 | Amazon

「やおきん公認 うまい棒大百科」 うまい棒同盟監修

 みなさんは『うまい棒』にまつわる思い出、あったりしますか?

 親に貰った10円玉を握り締め、生まれて初めての買い物。青春の味。おふくろの味。人生のどん底に突き落とされたとき――お前は相変わらずいつだって10円だなあ、その裏にどんだけ血と汗の滲むような努力があったんだろうな、それを一切感じさせないお前の笑顔……そんなお前の苦労も知らずに俺ときたら変わっちまったんだな、お前に気づかさせてもらったよ、ありがとう……。

 

 とまあ、色々とある方にはあるのでしょうが、僕は全くないですね。自分のお金で買った記憶すらありません。

 なんだか有名実業家と付き合ってる女みたいな言い方になっちゃいましたが、言っても10円ですからね。買いたいけど買えなくて我慢してたなんて有り得ない金額ですからね。……よくよく考えたら10円って凄いなあ、今ドキ10円で買えるのってうまい棒くらいですよね。……うん、まあ、駄菓子屋行ったらいっぱいあるんだろうけどさ、今その話をし始めたらうまい棒の凄さが霞むのでやめておきましょうね。

 10円という価格を維持するには、それはそれは陰ながら血と汗の滲むような努力があったのでしょう。作画は変わりつつもそれを全く感じさせないようなうまえもんの笑顔(さらっと流すところでしたが、このマスコットキャラクタの名前を『うまえもん』といいます)は40年近く全く変わりません。

 それなのに、僕には思い出が全くないのです。20年近く時代を共にしながら、たまに縁日とかクレーンゲームの景品でもらったりして、それ以上でもそれ以下でもなく、特に意識することなく今日を迎えてしまいました。

 

 でも、この本は何故か手元にあります。相当コアなファンじゃないと持っていないような代物を、何故か、僕が。

 読んでみると、これがまたとても深いところまで知ることができて面白いのですよ。元々興味のなかった僕でさえ、後半は興奮しながら読み進めていました。タモリ倶楽部をなんの気なしに見ていたのに気づいたらその分野の虜になっちゃってたときと一緒ですね。

 全種類のパッケージに加えて、ほかの企業とのコラボ商品までご丁寧に掲載していただいて、出版する際の権利の問題とか大変だったんじゃないでしょうか。……まあ、うまえもん自体が某国民的キャラクタのパク(ry

 最も興味深かったのは、うまい棒トリビア。随所からやおきんの飽くなき企業努力が垣間見えますが、中にはこんなものも。

新製品は定期的に企画されるわけではなく、モヤモヤしてきたら作るらしい。

 ここだけなんともアーティスティックで、素敵です。感性は芸術家に近いですね。

 そんな話をしていたら、なんだかうまい棒が食べたくなってきた。今度コンビニでも寄ったら、自分のお金で買ってみようか。ごめん、邪道だって言われるかもしれないけど、シュガーラスク味が好き。

 

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